年に数回個展をやらせてもらってますが、そのときにはポストカードも販売します。個展は秋、いつも11月に東京の飯田橋で新作展をやります。それ以外はテーマ別にした旧作です。 新作個展を毎年やると決めているから、新しいものを描けるようなものかもしれません。必要が無かったらなかなか描かなかったりする。怠け者なんで。

 新作個展は一週間。必ず会場にいます。ある時、その新作個展に、造形作家の方が来ました。その方は僕が会場でポストカードなどを販売していることがたいそう気に入らないようでした。そういうこと(ポストカードを販売したりすること)はやめたほうが良い、と。「そんなに自分の作品を安売りしたいのか?」と。
 正直、ピンとこなかったし、何を言いたいのかわかりませんでした。そもそも、ポストカードなどを売ることがなぜ「安売り」なのかが納得いかない。
 どうもその方は、そんな安易に複製を売るのは現物の価値を低める、と思っていたのか。しかも複製にするにしても、ポストカードなどと言う安っぽい商品にすることが気に入らないようで・・・。
 ポストカードを販売すると、もちろん数の上では原画よりはるかに売れます。僕の場合は、そのときに展示している絵のポストカードは売らず、あくまで旧作のみポストカードにすることが多い。そのときの新作をカードにして売っている人もいますから、やり方は人それぞれです。
 売るのなら原画を売って、買った人だけが楽しめるくらいの希少価値が必要だとでも思っていたのかもしれません。もとから議論などする気も無かったし、大きなお世話だろと思ってましたから、「あっ、そう?」てな感じでしたが。

 その方が「安売り」と言っていたのは、値段のことではなく、作品の扱い方を言っていたのだと思いますが、ポストカードにして安易に売るということが「安売り」だとは到底思えません。
 その人がそう思うのなら、自分がそんな方法をとらなければいいのであって、他人がどうしようと大きなお世話です。僕は、一枚しかない原画が誰かの手に渡って、それでおしまい、という方が悲しいですね。
 だから、原画を手放す場合は買ってくれた人に、後でポストカードにしてもいいかどうかを聞きます。まず間違いなく、快く承諾してくれます。
 このホームページで公開している「空飛ぶペンギン」のイラストはかなり人気者ですが、原画を売るときに、ハガキ印刷に発注を出す期間を待ってもらいました。(今はパソコンで作りますが)
 一枚の絵を、いろいろな方法でより多くの人に見てもらって、楽しんでもらった方が僕としてもうれしいし、作品だってうれしいと思います。現実的な問題としては効率もいいのです。
 原画はそりゃ数千円という単位で売ることはできません。万単位です。欲しくても手が出ない人がほとんどなのは当たり前です。そういう人がせめてポストカードを買っていく、というのはいいことだと思っています。もちろん、ご祝儀に買っていく人もいますが、手軽でいいでしょう?
 時には、自分の絵を年賀状、暑中見舞いなどに転用して作ってあげることもありますが、それが作品を低めることになるとは思えません。
 喜んで利用してもらって、それを見た人が楽しんでくれたらこんないいことは無いと思うのだが。どうも、その方はそうは思わないようだ。おそらく「芸術家」なのでしょう。

 ごく一部でのみ大層な扱いをしてもらって、陰で鑑賞されているのが良いというのは理解できません。少なくとも今の自分には到底理解できませんし、これから先も理解はできないでしょう。
 アンパンマンのやなせたかし氏の言葉を最後に・・・。

「芸術は一番わかりやすい美しい形で大衆の中にあるのが正しいと信じます。」

 おもしろいのは、その造形作家の方が帰って、しばらくしてから来た別の造形作家の方は、展示してあるひとつの絵を指差して「これはハガキにしないの?売れると思うわ。あたしも欲しいし」とおっしゃっていました。僕としてはこの人のほうが、普通の感覚だと思います。