かねがね、自分が究極の絵と思っているものがある。フランス西南部・ドルドーニュ地方の、ラスコー洞窟内に発見されたラスコーの壁画である。
 発見されたのは1940年、現在では保存のために閉鎖され、レプリカで見ることができる。壁画は、約2万年前にクロマニヨン人によって描かれたといわれる。動物などの絵を、岩の凹凸を巧みに利用して描かれている。ラスコー以外にもいくつかの洞窟画が見つかっているが、何のために描かれたのか?については諸説有り、はっきりとはわかっていないし、おそらく永遠に謎のままだと思われる。また、クロマニヨン人だけではなく、ネアンデルタール人も描いただろうと力説する学者もいる。
 もちろん自分は写真でしか見たことがないのだけど、これほどシンプルで洗練された絵というのはほかに見たことはない。洗練された生き生きとした絵は、現在においてもその魅力が色あせることがない。
 こんな絵が描けたらもう言うことが無いな、と思ったりしているのだった。絵の魅力以外にも、この壁画には重要な情報がたくさんあるのだが、それを紹介していたら軽く数冊の本になってしまう。

 こんな絵が描けたらいいな、とは思うものの、もちろん自分の描くタイプの絵ではない。描きたいと思っても、現在の自分の個性ではないというか。そんな絵は今までにもたくさんあって、たとえばノーマン・ロックエルという古いアメリカのイラストレーターが好きなのだが、そういうのを描いてみたいと思ったときもあったけど、まるっきり自分の描くタイプの絵ではないのは自覚した。ただ、それまで自分が描いているタイプとはまったく違う絵を描きたいと思って挑戦し、やっぱり違うと思って元に戻っても、なんかしらの肥やしにはなっていたり。

  ラスコーの壁画は、絵そのものもとてもいいし、壁画から発見されるさまざまな事柄もとても興味深い。壁画はとても膨大な量に上るのだけど、いつか一つ一つを忠実に模写する機会なんかがあるといいな、と思ったりする。もちろん本物を見に行ければ一番いいのだけど、写真資料でさえなかなか手に入らないのは残念であるのだった。