絵っていうのは、あえて分類すればいろいろになりますね。画材で言えば、油絵、水彩、エンピツ、パステル等々。形式なら、具象画、抽象画、イラスト、その他、コラージュなんて方法もあるし、版画や砂絵、分類すればいくらでもある。

 でも、少なくともひとつ共通しているものがあります。どのような画材、テーマで描いても、すべて「自画像」だと言うことです。風景画でも静物画でも、です。

 以前、目が不自由でほとんど見えず、視界も狭い友人が、僕の色鉛筆の風景画を、絵に顔を寄せて何点か見ていた。どれも、絵を見ているのではなく、風景を見ているようだ。と言ってくれました。風景画だからと言う意味ではなく、見ているのは絵なのだが、それ自体を風景として眺めている感じだ、と言っているのです。そして「どの絵にも良一がおるなぁ。」と言いました。
 そのとき、ハっと思いました。自分に似せた人物が描いてあるのではありません。僕の描いた絵はどれも僕自身である、と言っていたのでした。

 考えてみたらそうなんですね。風景を描こうが、静物を描こうが、抽象画でもコラージュでも何でも、もちろん彫刻でも、作っている人の表現であって、それはその人のフィルターを通して世の中を表現していたり。だから、絵に限らず小説でも詩でも音楽、料理でもすべて自画像と言ってもいいかもしれません。
 料理がなんで?と思うでしょうが、けっこう作っている人間がでますね。料理人だったら、ポリシーはバシバシ出るし、普通の人でも誰かに食べさせるのだったら、どのように作って食べさせるかとか、思い切り人間性が出るでしょう。自分が食べるだけのためでも、簡単に済ますのか凝って作るのか・・・。モロ自画像です。

 この「絵を描きたい貴方へ」のコーナーにも書きましたが、絵を描くと言うのは表現の一つの手段であって、それは人によって違う。音楽の人もいれば、文学の人、料理の人、その他あげたらなんでもありでしょう。その表現の手段と言うか回路が違うだけなのだと思います。
 だから、特に個展の時などに「芸術家」と言われることがありますが、ピンと来ないし、いま日本で使われている意味合いでの「芸術」という言葉は嫌いなので、正直あまり気持ちは良くありません。誰でもなにかしら自分を表現しているのであって、自分はその方法が絵や作り物だったりするだけなのだから。なにも語らない表現しないような人でも、それが充分その人を表しているということだってありますね。スクリーン上の高倉健さんなんかそうですね。(あの人は普段はおしゃべりみたいです。エッセイもおもしろかった。)

 表面的な事で「絵とは何か」と言えば「バランスと省略」だと思います。でも、内面的なことで言えば、すべて「自画像」である。と言って良いと思います。

 考えたら、今これを読んでいるあなた!自分のホームページを持っている人も多いと思いますが、思い切り自画像ですよねえ。(^▽^ケケケ


 冒頭で絵の分類をちょこっと書きましたが(あれが分類か?)、イラストというのがかなり曖昧で、わからない方が多いと思います。
 現在では確かにかなり意味が曖昧です。その方面の方でも曖昧に言葉を使っています。「イラストっぽい」なんて言葉は普通に使われますよね。実はおかしな使い方なんですが。

 では、イラストとはなんでしょう?手近な英和辞書でも引いてもらえればすぐにわかります。

・illustration : 実例、例証、(本の)さし絵、図解すること
・as an illustration : 例として
・by way of illustration : 実例として
・illustrator : さし絵画家

 そう、本来は「さし絵」のことです。小説の中に入っている絵や、科学記事で説明するための正確な絵が入っていたりしますが、あれははっきりとイラストです。イラストに対する言葉として「ファイン・アート(純粋絵画)」が使われたりします。
 この二つの絵は全く性格が違うのです。と言っても、絵を見ただけでは、それがファイン・アートなのかイラストなのかはまずわかりません。言っている意味がわからないかもしれませんが。
 ここで断っておきますが、僕自身の解釈で以降を述べます。目的を持った絵は「イラスト」と言って良いと思います。さし絵はあるものを視覚的に説明するという目的を持っています。
ファイン・アートは、そういう目的はありません。(まあ、作者の意図はあるでしょうが)自由に自分の描きたいものを描きます。○○展所属なんて言う絵描きさんたちは、ファインアートですね。イラストレーターでも、何かの説明やさし絵のためでなく自由に描いたらそれはイラストではなく、ファインアートです。
 逆にファインアートの画家が、急にイラストの仕事を請けて描くこともあります。その絵はイラストです。誰が描いたか?ではなく、どういう目的の絵なのかで決まります。
 だから、全く自由に描かれた絵でも、何かのさし絵などに使われたら、そのケースではイラストということになります。ややこしくなったけど、わかるでしょうかね?

ただ「肖像画」というのはこの場合どうなのか?となると、ちょっと微妙ですね。また、絵本などは、絵が主体ですから本来の「イラスト」という意味ではないような。絵本の場合「字」の方が絵を説明するための道具だったりしますから。

 そういう意味で、自分の絵もここのギャラリーに置いてある絵は半分以上はイラストではありません。でも、今はその辺の意味があいまいになっていますし「イラストっぽい」という表現をしても、個人的には別にかまわないと思っています。むしろその方が雰囲気が伝わったりもしますし。
 ただ、間違ってほしくないのは、ファインアートの方がイラストよりも権威があるような風潮が一部にあるだろうという点に関してです。おそらく「画家」と「イラストレーター」と言う言葉をならべたら、「画家」の方が重みがあって「偉い」と感じる人が多いだろうと思います。
 事実、少なくとも日本では「画家」の方が立場が「偉い」のではないかと思うし、そのように勘違いしている画家が多いだろうと思います。だいたい、何がどう偉いの?(誰に喧嘩売ってんだ?)
 イラストと言うのは、制約が多いのです。クライアントの注文を受けて、その注文の中で自分の味を出しつつ、クライアントの注文どおりの絵を描かねばなりません。小説や詩のさし絵だったら、その内容を把握して、的確に視覚的に表現しなければなりません。まあ、本来の内容よりも自分の画風に持っていってしまうのが味の人もいますが。注文どおりに描くというのは、それはそれで偉大な能力です。すべての「画家」にできるかと言ったら難しいでしょう。自由に描く絵とは全く違うのです。自由に描くより、そのような制約の中でより実力を発揮するイラストレーターもいますから、「画家」も「イラストレーター」もどちらが上と言うことはありません。
 もちろん他の分野でも同じです。本来はそれぞれが他の分野に対する尊敬を持っていなければいけないと思います。

 そうそう、もうひとつ付け加えると、「イラスト」。アレも本来注文に応じたり何かの制約の元で描くのですが、その制約の中で描く自画像と言えますね。(おおーっ、話がまとまったぁ)