水を描くって、とっても難しいという印象があるでしょう。これもやはり「水」という先入観があるからだと思います。ここでは「線画」によって水を描く方法を披露いたします。結果から言うと、水そのものを描くことは出来ないので、水の「存在を示す」ものを描くことになります。

 まず、写真のようになるべく模様のないコップを用意して下さい。紙と鉛筆と消しゴムも用意します。紙はコピー用紙程度で十分です。鉛筆は出来ればB~2B、無ければHBでもかまいません。あまり固くない芯のモノがよいでしょう。
 写真から描くことも出来ますが、最初のうちは実物を見ることが大事です。できれば、実物が用意出来た後に、ここから先をご覧下さい。

 コップに半分ちょっとの水を入れ、水を見やすいように背景を工夫して、じっと観察して下さい。特に、水面付近を中心に少なくとも3~5分はじっくり見て下さい。
 この場合に限らずスケッチなどをする場合、つまり対象物があってそれを紙の上に再現しようとするときは、いきなり描くことはせず、最初のうちはじっくり観察だけをする方が良いです。

 さて描きますが、今回はコップに入った「水」が表現できればいいので、コップの口の部分は描かなくてかまいません。水面よりちょっと上の部分からコップの底までを描きます。水が入っているので、それが表現できるように描いてみて下さい。

 さて、ちゃんと描いたつもりなのに、水が入っているようには見えない人も多いと思います。この絵を描かせると、水面部分は、ほとんどの人が右図のような水面を描きます。
 どこが間違っているか分かるでしょうか?サランラップのような極薄のガラスコップでもない限り、このようには見えないはずなんです。

 もう一度、水面部分、特に両端の部分を注意してみて下さい。本当に右上図の様にカーブが「つながっている」でしょうか?両側のカーブは切れていて、そして微妙に回り込んでいるはずです。
 「目」には、ちゃんとそのように見えていたはずなのに、指摘されるまでは、全くそのことに気づかない人の方が多いと思います。そんな風に切れて回り込んでいるなんて、思ってもみなかったからです。

 また、コップの両端に接していると思っていた、カーブも接しているのは手前のカーブだけではないですか?ある程度以上の厚みを持ったコップであれば、その厚みの分、向こう側のカーブは離れているはずなんです。

 では、もう一度よく見て描いてみて下さい。今度は「立派」な水面が描けるでしょう。

 ここで、さらにリアリティを出すために仕上げです。水面に屈折して映っているコップの底の模様をよく見て下さい。よーく見ると、思っても見なかった様な屈折した曲線が見えるでしょう。
 頭で考えると、そのように屈折した曲線は思いつきもしないし、変だと思うかも知れません。でも、そのように見えるのだから、そのように描けばいいのです。変だと思ってもそのように見えるのだからそのまま描けば、そのできあがった絵はきちんと再現された絵になっています。

 図が完成した絵です。色なんか付けていないけど、ちゃんと水が入っているコップに見えるでしょう?(わかりやすくするために、やや太すぎる線で描いたので、その点は不自然ですが)これを描くのに特別な「デッサン」の訓練なんて要りません。「ちゃんと見る」という訓練だけが必要なのです。と言うより、デッサンにおいて一番大事で、ほとんどの人のネックになっているのは「きちんと見る」ということだと思います。まぁ、強いて言えば、思うような水面の楕円を描くための練習が必要かも知れませんが^^。

 意欲のある方は、今度は水の入ったコップに鉛筆やお箸などを入れて、屈折して見える状態を描いてみるとおもしろいですよ。
 先入観に惑わされずにじっくりと観察して、描く対象がどこまで同じ状態で、どこから変化して見えるのか、太さはどのように変わって位置がどの様に変わっているか。。。。
 水に入れるときに、自分の側から見て、どの位置、どの向きに入れるかで見え方が全く変わりますから、いろいろ試してみて下さい。
 最も変化が際だっていて、描きやすいのはやや横向きだと思います。

 色を付けたくなる人もいるでしょう。ここまでしっかり描けたのに、水を「水色」に塗って台無しにする人もけっこういます。コップの周りに水色がない限り、水色なんてどこにもありませんよね。

 補足として「楕円のプロポーション」について。貴方がコップに近い距離(数m以内)にいれば、コップの口の部分、水面の部分、そして底の部分の楕円のつぶれ方は全て違うはずです。
 コップがほぼ円筒形で、コップの口が目線より下にあった場合、遠近の関係で、目線に近い位置ほど平べったく、下に行くほど円に近づいていきます。
 これは言葉で説明するよりも、図を見てもらった方がわかりやすいでしょう。

 なお、今回例に用いたコップは、かなり底の厚いモノだったので、どこにでもありそうなコップとして、お酒のワンカップなどのコップを用いた例もアップしておきます。